最初の贈り物

 あやのさまリクエスト「ヨルゴスとシェリアの日常」SSです。 本編終了後から一年後くらい。


 
 シェリアの膝の上にはヨルゴスの頭が乗っていた。彼の髪は常に切れそうに鋭い色をしているのに、午後の柔らかい光を受けて、いつもより柔らかそうに見えた。
(どっちの色に似るのかしら?)
 シェリアは鋼色の髪に指を通しながら夢想する。
(男の子だったら私の髪よりも、ヨルゴスの髪の方がきっと凛々しく見える。眉や目の形は穏やかすぎるかしら? もっと鋭くてもきっと素敵……でもやっぱりこのまま小さくしたみたいな男の子だったら嬉しいわ。女の子でもきっと似てれば美人になる。私に似ても嬉しいけれど、彼に似てたらもっと嬉しい)
 くっきりと刻まれた優しいカーブを描いた唇に見とれる。するとそこから言葉が漏れた。
「名前はどうしようかな」
 彼はシェリアの膝の上で頭をくるりと回すと、彼女の膨らんだお腹にキスを落とした。
「あなたに任せるわ。どうせもうたくさん候補を選んでいるのでしょう?」
「まあね。最初の贈り物だ。最高のものをあげたいと思っているよ。そうだな、男の子だったらカストール、カドモス、ライオス」
 聞き覚えのある響きにシェリアは頭のなかを探った。
「神話から?」
「英雄の名前だよ。それから、女の子だったら、イーリス、セレーネ、ニケ」
「それは女神の名前ね」
「ご不満?」
「あなたが選ぶにしては案外普通だもの」
 正直に意見を述べると、シェリアは髪を揺らして肩をすくめる。
「ひねったほうがいい?」
「いいえ。普通が一番だと思ってる……けれど、少しだけ個性はほしいかもしれないわね。願いを込めたいっていうか」
「ふうん。なんだか母親らしい意見だね」
「母親だもの」
 わずかに照れながらシェリアが返すと、ヨルゴスはふわりと笑った。
「どんな願いを込めたいのかな」
「自分で幸せをつかめる子になってほしいわ。だから、男の子だったら、強く賢く。女の子だったら、ええと、やっぱり……強く賢く」
 ヨルゴスは吹き出した。
「……同じなんだね? 君らしいな」
「優しく美しいだけじゃ幸せはつかめないと思うのよ。待っているだけ、守られるだけのお姫様じゃダメなのよ」
 シェリアが主張すると、ヨルゴスは「そうだね、そのとおりだ」とクスクスと笑う。
「あなたは? どんな願いを込めたいの」
 顔を覗き込む。銀糸のような髪が一房落ちると、彼はそれを愛おしそうに弄んだ。
「君と同じだよ?」
「ちゃんと考えて」
 茶化されてシェリアが膨れると、ヨルゴスは真面目な顔になる。
「そうだなあ」
 ヨルゴスはしばらくシェリアのお腹に頬を当て、耳を澄ましていた。まるで、お腹の子の意見を聞くような様子に、シェリアは思わず笑みをこぼした。
「じゃあ、アウストラリスらしく、ジョイアらしい名前にしようかな。僕の国と君の国はこれからもっと仲良くなる。二つの国を結びつけるこの子は、平和の象徴だ。そうであってもらわないと、困るからね」
「……素敵ね、それ」
 ヨルゴスの言うとおりだった。平和が崩れたら、シェリアの立場もヨルゴスの立場も悪くなる。そして子供の未来にも影が差す。
「だから、願いを込めよう。そうだなぁ、……アリスティティスっていうのはどうかな」
「……ええと、確か何代か前の王の名よね?」
「うん。アウストラリスの王にしては平和を愛していて、ジョイアに一度も攻め入らなかった賢王だ」
 アリスティティスと口の中で転がしてみる。涼やかな響きの心地よさに満足したあと、シェリアは問う。
「じゃあ女の子だったら?」
「ヘルミオネはどうかな。百年以上前にジョイアから嫁いだ皇女だ。北部の山道を切り開いて交易ルートを拡大させたのは彼女だと聞いてる」
 さらりと出てくる薀蓄にシェリアは感心するのを通り越して呆れる。
「……あなたって本当に物知りよね? 世の中で知らないことなんかないみたい」
 本に埋め尽くされたいくつかの部屋を思い浮かべ、あれが全部頭のなかにあるのだと畏怖の念にとらわれる。だが、ヨルゴスは「そうでもないよ?」
と不思議そうに首を傾げると、くすりと笑った。
「君についてはまだまだわからないことだらけ」
 そう言うと、ヨルゴスはシェリアを腕の中に囲う。甘い眼差しを落とす。頬を染めるシェリアの唇をついばみながら、脇腹に指を這わせる。
 紐を解くと柔らかく膨らんだお腹が白光に晒された。
 上下に分かれ、脱ぎ着しやすいドレスは、シェリアのために(もしかしたらヨルゴスのためかもしれないが)ヨルゴスの案で作られ、国内外の王侯貴族の評判が良い。彼は日々いろんな品を生み出しているが、普段の生活に役立つものから、こうした少し 偏執的 マニアック なものまで、品物は多種多様だった。
「わからないことが多いのは退屈しない」
 彼が長いまつげを伏せると、一瞬、真面目な医師の顔が現れる。彼は、シェリアのお腹を撫でると「そしてこの子の事は更にわからない。だから、僕は、最高に幸せだ」と溢れるような笑みを浮かべて、愛しむようにキスを落とした。

《おわり》


「#1RTで物書き歴2RTで使ってる道具3RTで書くときのこだわり4RTで一番書くのが好きなジャンル5RTで書いた作品数6RTで書くペース7RTでプロット披露8RTでキャラ設定披露9RTで物書きの心得10RTで最初にリプくれたあなたに短編書きます」で10RT頂いたので、最初にリプを下さったあやのさまへ。

励みになります→ clap

2014.6.5

 

Copyright © 2013-2014 山本風碧. All rights reserved.