普通の会話

「ねぇ、私って、なんで彼氏と長続きしないんだろ」
 メイがちらりと私をみる。その手の中には携帯電話が握りしめられて、カチカチと音を立て続けている。もう見なくてもキーを打つ事が出来るみたい。私にはそれ、無理だから。
「あんたさあ、そうやって、彼氏と一緒の時でも携帯触ってんでしょ」
「うーん、まぁそうかも」
 マスカラで重そうな睫毛は相変わらず下を向いている。
「それじゃ、しょうがないと思うけどな。彼氏よりケータイなんでしょ?」
「だってさぁ、メール来たらすぐ返さなきゃ悪いじゃん」
「少しくらい待ってくれるって」
「そうかなあ」
「そうだって」
 私は、コーヒーを手に取ると香りを楽しんだ。そして窓の外を見る。駅前にあるこのカフェの外ではいつも人が忙しく歩いている。
「この間ね、別れることになったのってさ……」
「また言ったんでしょ」
「……うん」
「あれ言われたら絶対引くって」
「そう?」
「私でもうわぁって思うもん」
「なっちゃんでも? そっかぁ。でもさぁ、いつもあたしでメールが終わるのって寂しいからさぁ……つい」
「分かるけど。この間は何回?」
「256回」
「うわ、最高記録じゃん。またよく数えたよね」
 私は呆れる。しかもニゴロだってさ。あはは、8ビット全部のフラグが立っちゃったんだ。
「正の字でも書いてるの? で、いつもみたいに?」
 メイは写メで撮ったのか、メモを渡してきた。開くとそこにはびっしりと正の字が並んでいる。うわぁ、これ送ったのか? それは引くわ、確実に。
「『あたしでメールが終わるの、これで256回だよ』って言っちゃったんだ。やっぱり重いかな」
「それ、やめなって。絶対精神衛生上悪いし」
「そっかな。じゃあ、やめたら彼氏と続くかな」
「まあ、いままでよりはいいんじゃない?」

 

「お客様」
 突如響いた声にふいに顔を上げると、店員の笑顔。
「お仕事中、申し訳ありませんが、ケーキを置かせて頂いてもよろしいでしょうか」
 私は渋々とテーブルの上に広げたノートパソコンを膝の上に移動する。
 画面にはぽんとメッセージが開く。
『PC?I´?e^???AE?e´?(C)?c?E¨?¥^^?@?》???3/4?1°A`2??‘E^−U´?E`?c?1/2I¨°A¨I`《Y´?E´?μ???a´?¢?E`?ae』
 目の前でケータイのキーを押すメイを睨みながら、私はすぐにキーボードを叩く。
『半角カナ使わないでよ。化けてるって』
 メイはすかさずキーを押す。
『PCは場所とるからねぇ^^ ケータイが駄目なら、スマートフォンにしちゃいなよ』
『スマートフォンってあれ小さすぎて使えないじゃん。絶対こっちのが打つのは速いから。重いけどね』

途中文字化けしてますが、そういうお話なので、ご了承ください。

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